《青萍之末》中、对『賢淵传说』的考据。
仙台市広瀬川の賢淵(かしこぶち)に伝わる民話です。ある男が川岸の岩に腰をおろして釣りをしていると、一匹の蜘蛛が現れて右足に糸をくっつけてきました。かたわらの柳の大木の根元に糸をなすりつけておくと、やがてすさまじい音がして大木は淵の中へ吸い込まれてしまいました。驚く男に対し、水しぶきの中から「かしこい、かしこい」と声がしたそうです。獲物を取り逃がしたのにむしろ相手を褒め称える、という滑稽な恐怖譚。『賢淵』という名前のストレートさが潔くて好きです。伝説って結構そんな感じ。
広瀬川には他に、『藤助淵』という伝説も伝わっています。藤助という男が水辺で釣りをしていると大ウナギが現れ、「明日の晩、賢淵の蜘蛛が攻めてくる。決して声を出さずにそこに立っていてくれ」と頼まれました。約束通りそこに行くと、すさまじい水音を立てて合戦が始まります。藤助が思わず「あっ」と声を出すと淵は静かになり、次の朝、負けた大ウナギの首が浮いてるのを見た藤助は狂い死にしてしまいました。
蜘蛛VSウナギ…淵の主の対決すごそうです。ちなみに近くの『源兵衛淵』にも同一の伝説があります。源兵衛淵の場合、合戦の際「源兵衛ここに控えておる」と言ってくれと大ウナギに頼まれますが、怖くなった源兵衛は家に逃げてしまう話になっています。オチは同じ。
●水蜘蛛伝説まとめ●
水辺で蜘蛛に糸をかけられ、その糸を移すことで危機一髪難を逃れるという「水蜘蛛」型の民話は全国各地に存在します。
有名なのは、静岡県伊豆市の『浄蓮の滝』伝説。賢淵と同じく木に糸を移して助かる話ですが(蜘蛛には何も言われない)、こちらでは滝の主がジョロウグモということになっています。
この話には続きがあり、滝の主がジョロウグモだと知った村人たちは滝に近寄らなくなっていました。しかしよその地域から来た木こりが木を切りに来て斧を落としてしまい、拾おうとして滝に潜ると水の中に美女がいました。美女は男に斧を渡し、「私の事は誰にも言ってはいけない」と口止めします。男は長らく黙っていましたが、ある日酒の席でうっかり話してしまいます。全て打ち明けてすっきりした男はそのまま眠り、二度と目を覚ましませんでした。
↓他にも色々。
・勢返しの滝
熊本県菊池郡に伝わる。蜘蛛が膝頭に糸をつけたので近くの柳に擦りつけておいた。するちえらい音がして木は根こそぎ水中に引きこまれた。
・おとろしが(おそろしが)淵
熊本県南阿蘇郡に伝わる。非常に蜘蛛の多い場所で、魚釣りに行っても竿も糸も蜘蛛の巣で台無しにされる。そのためか淵の主は蜘蛛だと言われていた。ある男が釣りをしていると、脚のまわりを蜘蛛がぐるぐる回り、川を挟んで反対側の岸の方へ泳いでいってはまた戻ってくるのを繰り返す。しばらくすると大きな音がして自分の履いていた草履が向こうの岸へ飛んで行った。草履ではなく草鞋か素足だったら男は引きずり込まれていたであろう。
・コグロ淵(不動の滝)
茨城県高荻市に伝わる。釣りをしていると蜘蛛が親指に糸をかけた。大木の切り株に移しておいたところ、切り株は深い淵の中に引き込まれ、そこから不気味な笑い声が聞こえた。
・景信淵
東京都八王子市に伝わる。ここには悲惨な落城伝説もあり人の寄りつかない場所だったが、ある男が釣りをしてみると沢山釣れた。しかしふと気がつくと蜘蛛が片足に糸を巻きつけている。足を上げると石のように重く、男はそれを木の株に移した。しばらく繰り返していると急に天気が大荒れになり、逃げ出した瞬間木の株が水に引き込まれた。するとすぐ嵐は収まった。
・半田山の沼
福島県伊達郡に伝わる。沢山釣れて喜んでいると水蜘蛛が裸足の親指に糸をかけた。不思議に思い近くにあった柳の株にかけておくと、やがて沼の底から「次郎も太郎もみんな来い」と大声がする。びっくりしていると魚籠の中の魚がみんな逃げだしてしまう。そのうち沼の中から大勢の声でえんとえんやらさあという掛け声がして、太い株根っこはぽっきり折れてしまった。
・『裏見寒話』にある話
中群あたりの淵でのこと。釣り糸を垂れていると蜘蛛が左足の指に糸を何重にも巻きつけているの気付く。驚いて近くの柳の切り株に擦りつけておくと切り株は水中に引き込まれた。古老が言うには、水中の蜘蛛は人を食うらしい。
・『耳嚢』にある話
千葉県夷隅郡旧大野村の話。大野村の川に通称縦の井戸という深いところがあった。釣りをしていると足に糸を巻きつけられたので側にあった杭の木に移した。水中から「よしか、よしか」と声がし、藪の中から「よし」と返事が返ったかと思うと杭の木は半分から折られてしまった。
・『遠野物語』にある話
岩手県土淵村の話。小鳥瀬川の奥の淵で釣りをしていると、時々蜘蛛の巣が顔にかかるので傍らの切り株にかけておいた。イワナがよく釣れ、そろそろ帰ろうとすると突然切り株が根こそぎ淵の中に落ち込んだ。家に帰って釣った魚を確認すると、魚はみんな柳の葉だった。
その他、埼玉県廻淵や、静岡県たっくい淵、長野県蜘蛛が淵などにも同様の話があるそうです。
いやあ多いですね…まさに全国規模。
地域によっては微妙に細かいところが違ったりして面白いです。蜘蛛が喋る場合も結構多い。でも人間の姿で現れるのは浄蓮の滝ぐらいでしょうか。やはりこちらは正体がジョロウグモである事がポイントなのかもしれませんね。ジョロウグモ=美女のイメージは堅い。
(参考:広瀬川のHP、『日本の妖怪の謎と不思議』、高木敏雄『日本伝説集』、『日本の民話事典』、柴田宵曲『奇談異聞辞典』、根岸鎮衛『耳嚢』、柳田國男『日本の昔話』『遠野物語拾遺』)
Comments