竹岡啓
1.クティンガの王
旧支配者を水風地火の四大に分類する説は有名だが、その中で火神クトゥグアはやや特殊である。ハスターやクトゥルーやシュブ=ニグラスといった神々は四大説が唱えられる以前から存在しており、風や水や地の属性を後から割り当てられた。それに対し、クトゥグアは四大説を完成させるために作り出されたのである。ロバート=プライスが『トートの書』の解説で述べているところによると、旧支配者には火の神性が欠けているとフランシス=T=レイニーが指摘したので、ダーレスは穴埋めのためにクトゥグアを創造したそうである。神のために属性があるのではなく、属性のために神があるようなものだ。事実、クトゥグアへの言及がある最初の出版物はレイニーが1943年に発表した「クトゥルー神話小辞典」である。ダーレスが初めてクトゥグアに言及したのはウィアードテイルズの1944年3月号に掲載された「アンドルー=フェランの手記」だが、これも単に名前が出てくるというだけである。ウィアードテイルズの1944年11月号に掲載された「闇に棲みつくもの」でクトゥグアはようやく具体的な姿を見せることになる。
穴埋めのために創造された存在であるがゆえに火の勢力は陣容が貧弱であり、クトゥグア以外の神が存在しなかった。この状況はダーレスの没後まで続いたが、1970年代になって新たな火神が加わる。それがアフーム=ザー(Aphoom Zhah)とフタグア(Fthaggua)で、どちらもリン=カーターによってクトゥルー神話大系に導入された。アフーム=ザーはカーター自身の創造した神、フタグアはドナルド=ワンドレイの創造した存在だが、本項では後者について論じることにする。フタグアの登場するワンドレイの小説はウィアードテイルズの1933年2月号に掲載された"The Fire Vampires"(1)だけである。つまりフタグアはクトゥグアよりも歴史が古いのだが、本来この短編はクトゥルー神話とは何の関係もない。まだ邦訳が存在しないという事情も踏まえ、この短編の粗筋を紹介させていただくことにする。なお"The Fire Vampires"を直訳すれば「火の吸血鬼」だが、私は単に「火鬼」と呼んでいる。
"The Fire Vampires"の舞台は24世紀前半の地球であり、世界各国はすでに統一されて地球連邦が誕生しているという設定である。フタグアが地球を襲撃して退治されるまでに顛末が語られるのだが、語り手は連邦政府で働いているアリン=マースデールという歴史家であり、一切が終わった後で彼が事件を記録に残したという体裁になっている。2321年7月7日、グスターヴ=ノルビーという天文学者が新しい天体を発見したところから物語は始まる。その天体は発見者に因んでノルビー彗星と命名され、地球から約5光年離れたところにあることが確認された(2)。余談だが、ノルビーが勤めているのはカリフォルニアに実在するウィルソン山天文台である。24世紀になってもウィルソン山天文台は活動を続けており、口径20メートルの超巨大反射望遠鏡が建設されているということになっている。
計算によると、ノルビー彗星は18年で地球に到達するはずであり、その際に地球と衝突するのではないかという懸念が持たれた。18年も先のこととあって大衆の反応は鈍かったが、そのとき奇怪な現象が生じた。8月10日にノルビー彗星は忽然と消えてしまったのである。4日後に再び現れた彗星は太陽系のすぐ外側、冥王星から10億キロも離れていないところにあった。わずか4日間で5光年の距離を移動したわけである。8月15日、彗星はとうとう地球に到達した。しかし危惧されていた衝突は起きず、ノルビー彗星は衛星のように地球の周りを回ってから宇宙の彼方へ飛び去っていった。彗星の性質を巡ってノルビーと助手のヒュー=アーヴァーは激論を戦わせる。何らかの知的生命体が彗星を操縦しているに違いないというのがノルビーの見解だったが、摂氏1100度もある天体に知的生命体が住めるはずがないとアーヴァーは反論する。彗星が飛来している間に地上で何千件も発生した謎の焼死事件も彗星と関係があるのかもしれないとノルビーは推測した。
6年後の2327年、ノルビー彗星は再び地球にやってきた。赤い稲妻のような姿をした無数の火鬼が彗星から地球に降り立ち、一斉に人々に襲いかかった。犠牲者はたちまち焼き殺され、灰になった骨しか後には残らなかった。そして米国の上空に巨大な火の文字が浮かび、「地球人諸君……」で始まる英語の文章になった。クティンガ──地球人がノルビー彗星と呼んでいる天体の王であり、火鬼の統領であるフタグアからのメッセージだ。それは次のように告げていた。
おまえたちはこれより永遠に我々に隷属することになる。抵抗は無意味だ。
他の国々にもそれぞれの言語で同一のメッセージが送られていた。2332年に地球を再訪するから、そのときにウィルソン山の頂上で生贄を捧げるようにと言い残してフタグアは去っていく。生贄として要求された人々の中には、地球連邦大統領や国際軍最高司令官と並んでノルビーの名もあった。観測の結果、クティンガに火鬼の都市があることが明らかになる。フタグアが地球人の言語を完璧に使いこなしていたことについて、火鬼の餌食になった人間の記憶は火鬼に吸収されるのだろうとノルビーは推測する。そのようにして吸収された知識はすべての火鬼によって共有されているというのがノルビーの仮説だった。
為す術もなく5年が経過し、クティンガが再びやってきた。ノルビーは事故死を装って身を隠すが、結局はフタグアに見破られてしまう。立腹したフタグアは制裁のために大殺戮を行い、「2339年7月17日にまた来る。その時こそノルビーを生贄として差し出さなければ、北米大陸に住む人間を皆殺しにする」と予告して去った。人類は絶望に囚われ、それから7年間の社会の荒廃は凄まじいものがあった。とりわけ北米大陸からは止めどもなく人口が流出していった。生贄になるのを拒んだノルビーは人類への裏切者の烙印を押されながら黙々と研究を続けた。火鬼を斃す方法は皆目わからなかったが、いくつか疑問に思われる点があったのだ。火鬼はすべて赤いのに、なぜ統領のフタグアだけが青いのか? 地球への攻撃にはすべての火鬼が参加していたが、なぜクティンガの都市を空にする必要があるのか?
連邦政府の命令のもとウィルソン山は立入禁止区域に指定され、極秘裏に工事が進められた。山頂には深さ150メートルのクレーターが作られる。ついに2339年7月17日を迎え、ノルビーは巨大なクレーターの底で独りフタグアを待った。予告通りにフタグアは現れ、ノルビーに襲いかかったが、そのときエレベータが作動してノルビーを地下に避難させた。そしてクレーターの蓋が閉じてフタグアを中に閉じこめ、超高圧電流による攻撃が始まる。フタグアはエネルギー生命体なので、短絡させることによって殺せるのだ。かくしてフタグアは滅び、それと同時にすべての火鬼が一斉に消滅してしまった。主を失ったクティンガは地球の衛星となり、人類は救われた。後にノルビーは説明する。一か八かの賭だったが、うまく成功してくれた。フタグアだけ色が青いことや、すべての火鬼が一斉にクティンガを離れることからわかったのは、大勢いるように見える火鬼は実は一体だけだということだった。つまり実在するのはフタグアだけで、他の火鬼はすべてフタグアの器官に過ぎなかったのだ。
以上であるが、いかがだっただろうか。彗星のような天体に乗って宇宙を駆け巡り、あらゆる生命体を餌食として吸収する火鬼はまるで『スタートレック』のボーグである。吸収した知識が全体によって共有される点も似通っているが、物語の結末はいささか安直な印象を与えるかもしれない。また神話作品でもなかったのだが、40年以上も経ってからカーターがこの作品に注目し、神話大系に取り入れたのである。その際にフタグアはクトゥグアに直属して火鬼を率いる存在となった。すなわちクトゥルーに対するダゴン、ハスターに対するロイガーの地位である。今日フタグアはクトゥルー神話TRPGにおいて馴染み深い存在となっているが、火の大邪神に仕える将軍というカーターの説が人口に膾炙し、24世紀に地球を襲撃して滅ぼされるという本来の物語は無視されがちなようだ。なお、フタグアは旧支配者とは見なされないのが一般的である。スコット=デイヴィッド=アニオロウスキのMalleus Monstrorum では「フタグアはいつの日か旧支配者の地位に昇るかもしれない」と述べられているが、いわば準旧支配者といったところか。
2.冷たき焔
火の神々の中で、クトゥグアに次いで重要な存在といえるのがリン=カーターの創造したアフーム=ザーである。この神の初出はカーターが1976年に発表した「ゾス=オムモグ」(3)で、そこでアフーム=ザーはクトゥグアの子という地位を与えられた(4)。またルリム=シャイコースはアフーム=ザーの従僕であるとカーターは述べているが、これらの事実はフォン=ユンツトの『無名祭祀書』に書かれているそうである。
カーターは1980年にC.A.スミスとの「合作」として短編「極地からの光」(5)を発表した。この作品はいわばスミスの「白蛆の襲来」の後日談であり、ファラジンというヒューペルボリアの魔道士を主人公としている。以下にその粗筋をかいつまんで述べる。なおファラジンという名前はカーターの知人トーマス=コックロフト(6)がニュージーランドのファラジン通りに住んでいたことに因んだものだが、クトゥルー神話ファンらしい遊びといえるだろう。
ルリム=シャイコースは滅んだが、真の脅威である極地の帝王アフーム=ザーが復活しようとしていた。ルリム=シャイコースの主であるアフーム=ザーは旧神によってヤラク山の下に封印されていたが、ルリム=シャイコースがエヴァグを下僕としたようにファラジンを下僕として己を解放させようとする。ファラジンは下僕となることを拒み、自らの喉を掻き切ったのだった。
以上である。あまりにもあっさりした話だと思われるかもしれないが、続いて1985年に発表された「焔の侍者」(7)でアフーム=ザーは実力を発揮することになった。「焔の侍者」は末期のヒューペルボリアを舞台とした作品で、その語り手であるアスロクはナコト同胞団の文書館員である。カーターの設定ではイースの大いなる種族が『ナコト写本』を著したということになっているのだが、ナコト同胞団は大いなる種族の知識を後世に伝えることを目的とする組織で、『ナコト写本』をヒューペルボリアからロマールそしてヨーロッパにもたらしたのも彼らだそうだ(8)。
ファラジンを服従させそこなったアフーム=ザーは相変わらずヤラク山の下に封印されていた。封印されていてもアフーム=ザーの力はすさまじく、ヒューペルボリア大陸はじわじわと氷河に侵食されていく。アフーム=ザーは炎の大帝クトゥグアの子であるにもかかわらず、一切を凍りつかせる冷気の神なのである。ある日、同胞団の書庫で古文書を閲覧していたアスロクは奇妙な予言を発見した。それはヴーアミ族の祭司によるもので、炎の形をした灰色の痣が胸にある「解放者」がいつの日か現れるだろうと告げていた。アスロクの胸にはその痣があった。
自分こそはアフーム=ザーの脅威からヒューペルボリアを救う解放者に違いないと確信したアスロクはバイアクヘーに乗ってヤラク山を訪れ、地底に降りていく。アフーム=ザーが幽閉されている奈落に臨む断崖にアスロクがとうとう辿り着くと、そこには巨大な旧神の印が安置されていた。奈落の底から放射されるアフーム=ザーの意志に支配されたアスロクは旧神の印を粉々に打ち砕いてしまい、巨大な灰色の炎が奈落の底から飛び出してくる。それこそはアフーム=ザーに他ならなかった。アスロクは確かに解放者だったが、それはアフーム=ザーにとっての解放者という意味だったのだ。
アスロクはそこで命を落とすこともなく発狂することもなく地上に逃げ戻り、辛抱強く待ってくれていたバイアクヘーに飛び乗って、同胞団の本部がある南方の都に引き返した。解き放たれたアフーム=ザーは存分に力を振るい、ヒューペルボリア全土はたちまち氷河に覆い尽くされる。大寒波の襲来を生き延びたわずかな人々にできたのは、より温暖な南の大陸に移住することだけだった。同胞団はアスロクを処罰しようとはせず、代わりに事の顛末を子細漏らさず記録に残すよう彼に命じた。かくしてアスロクが書いた文章が『ナコト写本』の一部として今日まで伝わっているのだ。アスロクは次のように自分の話を締めくくっている。
ああ麗しの南国ロマールよ、汝の舗道はいつまで灰色の焔の猛襲を免れていられるだろうか? 今朝方、私は尖塔の頂から景色を見渡し、緑なす谷に大氷河の塁壁が容赦なく迫るのを目の当たりにしたばかりなのだから!
旧神は何をしているのだと思われるかもしれないが、カーターの神話における旧神は大宇宙の支配者ではあっても人類の擁護者ではない。人類が危機にさらされたからといって旧神がすぐさま駆けつけてきてくれるわけではないのだ。旧支配者が自由の身になるのを旧神はもちろん認めないが、旧神がアフーム=ザーを再び封印するために降臨するまでには相当な時間があり、その間アフーム=ザーはたっぷりと暴威を振るうことができたのである。現在アフーム=ザーは北極に幽閉されている模様だが、その封印が破れる日はいつ到来しないとも限らない。そのとき、人類は何にも頼れないのだということは心得ておくべきだろう。
3.コルヴァズの剣
まったくといっていいほど日本では知られていないが、ジョン=グラスビーというクトゥルー神話作家が英国にいる。1928年に生まれ、名門ノッティンガム大学の化学科を優等で卒業したグラスビーはインペリアル=ケミカル=インダストリーズ社に研究員として勤務する傍ら、おびただしい小説を筆名で発表していた。また自然科学の解説書の著者としても知られている。彼の最近のクトゥルー神話作品としては、2005年に刊行されたアンソロジー『続インスマス年代記』(9)に収録されている「イハ=ントレイを探して」があるが、これは1928年に連邦捜査局・海軍・海兵隊が合同で行ったインスマスの住民の一斉検挙とイハ=ントレイへの魚雷攻撃を描いた短編である(10)。
ロバート=プライスは『シュブ=ニグラス神話集』の解説でグラスビーのことを「『新ラヴクラフト・サークル』の失われたメンバー」と呼んでいる。「新ラヴクラフト・サークル」というのは耳慣れない言葉かもしれないが、ブライアン=ラムレイやラムジー=キャンベルなどオーガスト=ダーレスが育て上げた作家たちのことである。あるいは第二世代の神話作家たちと呼んでもよいだろう。以下にプライス博士の言葉を引用する。
ジェイムズ=ウェイド・ゲイリー=メイヤース・コリン=ウィルソン・ブライアン=ラムレイ・ラムジー=キャンベル・リン=カーターといった新進作家たちにオーガスト=ダーレスはクトゥルー神話の未来を託したのであるが、この「新ラヴクラフト・サークル」(11)の失われたメンバーと呼べるのがジョン=グラスビーである。1970年代初頭にダーレスはグラスビーの神話作品集を受理し、『悪夢の地平』と題して出版しようとしたが、ダーレスが痛ましくも世を去った後に原稿はグラスビーの手許へ戻ってきた。1989年にマイク=アシュリーが私の注意を喚起し、そして我々が『クトゥルーの窖』に掲載するまで、グラスビーの神話作品は眠り続けていた。
このような事情から、神話作家としてのグラスビーは比較的最近まで無名だったが、現在では彼の神話作品を様々なアンソロジーで手軽に読める。本稿で紹介したいのは、そのうち「黒い鏡」と題する短編である。この作品の初出はスーパーナチュラル=ストーリーズの109号(1967年夏季号)だが、そのときは編集者の判断によってクトゥルー神話関連の記述がすべて削除されていたという。一般の読者にわからないからという理由でクトゥルー神話が敬遠されていたことが窺えるが、それから29年後に刊行されたアンソロジー『新ラヴクラフト・サークル』にはオリジナルの「黒い鏡」が収録されている。
「黒い鏡」はクトゥグアを扱った神話作品である。この作品がやや特殊なのは、クトゥグアがフォマルハウトではなく、その近くにあるコルヴァズという星に封印されているとしている点だろう。あるいはフォマルハウトという有名すぎる星の陳腐さを嫌ったのかもしれないが、クトゥグアが恒星に幽閉されているという設定も注目に値する。すなわちクトゥグアの顕現は恒星のように巨大なのである。巨大な邪神といえば、ラムジー=キャンベルの創造したグロスが有名だが、そのグロスもせいぜい惑星程度の大きさである。「黒い鏡」のクトゥグアはその比ではない。アザトースやヨグ=ソトースを別にすれば、巨大さでクトゥグアを上回る神は今のところ存在しないように思われる。もちろんクトゥグアが真の力を発揮すれば地球を一瞬で灰にすることも可能であるが、これはクトゥグアと力が拮抗しているとされるクトゥルーやハスターの強大さをも暗示する設定である。さても大風呂敷を広げたものだといわれるかもしれないが、私個人はこの設定がたいへん気に入っている。
コルヴァズの周りを公転している惑星には、クトゥグアに仕える火鬼の都市があるとされるが、この火鬼というのは炎の精と同一の存在だろう。魔術師ニコラス=ゼグレンビ(12)は火鬼を招喚し、1666年のロンドン大火を引き起こした。ゼグレンビが火鬼を招喚するのに使った道具は、彼が異界から持ち帰った「黒鏡」であり、『ゼグレンビ手稿』に黒鏡の在処が記されているという。不幸にも黒鏡を見付けてしまった男の運命が「黒い鏡」では語られている。
話はこれだけでは終わらない。グラスビーが「黒い鏡」で作った設定は『デルタグリーン』のサプリメント『カウントダウン』に取り入れられているのである。ただし『カウントダウン』ではコルヴァズはフォマルハウトの別名であるということになっており、設定が従来のものに近づいている。またクトゥグアはコルヴァズの周りを回っているということになっており、大きさが恒星級から惑星級に引き下げられている。一方では新しい設定が付け加えられており、それが「コルヴァズの剣」なるアイテムである。
コルヴァズの剣は火鬼の炎で鍛え、刃の中に火鬼を封じ込めた片刃の剣である。象牙の柄がついているが、鍔はない。あらゆる可燃物に刀身で触れるだけで燃え上がらせることができ、また不燃物であっても焦げ付かせることができる。強大な破壊力を持つ武器だが、使用するたびに正気を蝕んでいく(13)。剣を使っているものが正気を完全に喪失すると、我が身を焼き滅ぼして新たな火鬼に生まれ変わる。そしてコルヴァズへと飛び去り、そこで未来永劫クトゥグアに仕えることになるのである。
コルヴァズの剣はピスケス(14)の工作員サラ=ムーアが所持しているということになっているが、他のNPCやPCに使わせることも可能である。剣を使い続けるうちに火鬼に近づいていくという設定は、人間から怪物への変貌というクトゥルー神話のモチーフのひとつを新しい角度から捉えたものといえるだろう。旧支配者を水風地火の四大に分けたのはいいが、火の神が欠けているではないかとフランシス=T=レイニーに指摘されたダーレスが穴埋めのために創造したのがクトゥグアだった。だが誕生から60年以上の時を経た今もクトゥグアは成長し続け、クトゥルー神話の世界を豊かなものにしてくれているのである。
註
この短編はフェドガン&ブレマーのワンドレイ作品集『夢見る勿れ』に収録されている。 http://www.amazon.com/gp/product/1878252275/
彗星というのは太陽系の天体であり、地球から5光年も離れたところにある天体を彗星と呼ぶことは有り得ないが、どうやらワンドレイはそれを知らなかったらしい。このことを指摘してくださった坪根徹さんに感謝いたします。
「ゾス=オムモグ」はカーターの連作短編『超時間の恐怖』の第4話に当たり、「陳列室の恐怖」と改題された上でケイオシアムのカーター作品集『ゾス伝説群』に収録されている。今日「ゾス=オムモグ」を読みたかったら『ゾス伝説群』を購入するのがもっとも手っ取り早いだろう。
同様にハスター・クトゥルー・ヴルトゥームはヨグ=ソトースの子であり、ガタノトーア・イソグサ・ゾス=オムモグはクトゥルーの子であるとカーターは述べている。これらの設定は侮れない影響力を持ち、ダニエル=ハームズの『エンサイクロペディア・クトゥルフ』にも取り入れられた。
「極地からの光」はケイオシアムのアンソロジー『エイボンの書』に収録されているが、ボイド=ピアソン氏のサイトで読むこともできる。 http://www.eldritchdark.com/writings/short-stories/114
青心社の『クトゥルー(V) 異次元の影』にコックロフトの「『魔道書目録』『神々の系譜』補遺」が収録されている。
「焔の侍者」はケイオシアムの『エイボンの書』に収録されている。なお執筆された順番からいうと「焔の侍者」の方が「ゾス=オムモグ」より先なのだが、1985年に発表した際にカーターは「焔の侍者」を書き直したそうである。
『ナコト写本』をヒューペルボリアからヨーロッパにもたらした秘密教団については、ラヴクラフトがリチャード=シーライトに宛てて書いた1936年2月13日付の書簡に言及がある。カーターはこれを踏まえてナコト同胞団を創造したわけである。
学研から邦訳が出ている『インスマス年代記』の続編。 http://www.amazon.co.jp/gp/product/1878252569/
デルタグリーンをモチーフとしたアンソロジー『暗黒劇場』に収録されているアダム=スコット=グランシーの短編「もう一度、最初から」も同趣旨の作品なので、読み比べてみるとおもしろい。物語の迫力ではグランシーが、荘厳さではグラスビーが勝っているというのが私見である。 http://www.amazon.com/gp/product/1887797173/
厳密には「ダーレス・サークル」と呼ぶべきだろう。
この魔術師の名前はダニエル=ハームズの『エンサイクロペディア・クトゥルフ』ではゼゲムブリ(Zegembri)となっているが、ゼグレンビ(Zegrembi)が正しい。どうも彼は名前を間違えられやすいらしく、『デルタグリーン』のサプリメント『カウントダウン』ではゼンブレギ(Zembregi)になっているが、これは公式サイトで訂正されている。 http://www.delta-green.com/opensource/countdown/errata.html
ゲームに使用する際の具体的な規則を以下に記しておく。より詳細なことを知りたい場合は『カウントダウン』の38ページを参照されたい。 普通の剣として使うときの攻撃力 1D8+1+DB 1MPを消費して刃を白熱させたときの攻撃力 3D6+DB あらゆる可燃物に触れるだけで発火させられる(MPは消費しない) 1MPの消費で1体の火鬼を招喚可能(制御するためには別に呪文が必要) 抜刀のたびにSANチェックを行い、失敗したら1D3のSANを喪失する。 SANが0になったら焼身して火鬼に生まれ変わる。
デルタグリーンの英国版ともいうべき組織。ピスケスの中枢はシャンに乗っ取られているが、シャンはアザトース以外の神への信仰をことごとく根絶しようとするので、ピスケスは表向き正常に機能しているように見える。
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